がん講演会(過去の講演会の内容)

第22回 北海道がん講演会

『がん治療の最前線』
日 時: 平成16年7月3日(土)午後1時30分〜午後4時
場 所: 札幌市中央区北2条西1丁目1番地 ホテルニューオータニ札幌4階 朝日ホール

1. 放射線治療 ─ 化学放射線治療 ─
2. 放射線治療 ─ ピンポイント照射 ─

放射線診療部長 西尾 正道

 癌の放射線治療の領域は薬剤とコンピュータ技術の進歩の恩恵を最も受けている分野です。化学療法と放射線治療を同時併用する化学放射線療法(chemoradiation)により、多くの部位の癌治療成績が向上しており、頭頸部癌、食道癌、子宮頸癌などは標準的な治療法として確立してきました。また難治性の手術不能な膵臓癌などでも延命が期待できるようになっています。

 また癌病巣にだけ限局して周囲の正常組織を傷つけることなく治療するピンポイント照射とも言える技術も定位放射線治療として日常臨床で行うことができるようになりました。

 そして腫瘍マーカーである前立腺特異抗原(PSA)により早期発見が急増している前立腺癌の治療においては、ヨード(I-125)線源を用いた組織内照射が本邦でも実施できるようになり、性機能を温存した前立腺癌の治療が普及しつつあります。講演では、化学放射線療法と定位放射線治療および前立腺癌の放射線治療について概説します。

3. 化学療法 ─ 造血幹細胞移植 ─

血液科医長 黒澤 光俊

 造血幹細胞移植は血液を造るもとになる細胞を移植する方法ですが、薬の治療だけでは治しがたい病気に対して治癒が期待できる治療法として普及してきました。骨髄移植のほかに造血幹細胞を末梢血中に誘導し、採取して行う末梢血幹細胞移植、胎盤中の血液に含まれる幹細胞を利用する臍帯血移植があります。自分以外の健康な人から造血幹細胞を提供してもらって骨髄を置き換える移植を「同種移植」とよび、白血球の型が一致した兄弟や他人から移植します。また自分自身の造血幹細胞を使用し、強力な抗がん剤による骨髄毒性を軽減する目的で行う移植を「自家移植」といいます。対象疾患は急性白血病、慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、再生不良性貧血などの血液疾患や先天性の遺伝性疾患のほかに乳癌、腎癌なども含まれます。2002年度までに日本で実施された移植総数は22,000件を超え、最近では年間2,000件以上の移植が行われています。

4. 化学療法 ─ 分子標的治療 ─

呼吸器科医長 磯部 宏

 がんの全身療法として抗癌剤治療は重要な治療法です。しかし、これまでの抗癌剤のほとんどは「細胞毒」であり、必ずしも十分でない効果と、時に強い副作用が大きな問題でした。近年のがん研究の進歩により、がん細胞と正常細胞の違いに関わる分子レベルの異常が次々と明らかにされてきています。これらの分子を阻害することにより,がん細胞を抑えることができるのではないかと期待されています。このように、癌あるいは癌組織における異常分子の阻害を目的として開発された新たなタイプの抗悪性腫瘍薬が分子標的治療薬です。この分子標的治療薬により、より選択的、より効果的にがん細胞を叩こうとする戦略が開始され、肺がんや乳がん、血液の腫瘍などで効果がみられています。この新しい抗悪性腫瘍薬の有効性と危険性を紹介します。